Engineering · 統制

AIエージェントの会話を後から追う — Compliance API セッション転写の設計

AIエージェントが何をしたかを組織が後から取り出せる「事後検出」の設計。Anthropic の Compliance API(Claude Enterprise beta)は Cowork と Claude Code のセッション転写を eDiscovery や DLP 施行のために提供する、推論前フィルタとは独立した別の制御層です。

要点

  • Anthropic の Compliance API(Claude Enterprise beta)は Claude Cowork(Desktop・Web・Mobile)と Claude Code(CLI・Desktop・IDE 拡張)のセッション転写をカバーする。既存の Compliance Access Key で追加の統合なしに利用できる(platform.claude.com/docs)。
  • セッション転写は Anthropic のサーバー側で Claude API 呼び出しをキャプチャして再構成する。ユーザー入力・AI 応答・ツール呼び出しと結果が取得できる。Thinking ブロック・システムプロンプト・ツール定義・バイナリファイルは返されない(platform.claude.com/docs)。
  • エンドポイントはローカルセッション(/v1/compliance/apps/sessions/local・ID 接頭辞 clls_)とリモートセッション(/v1/compliance/apps/sessions/remote・ID 接頭辞 cse_)の 2 系統で、保持期間・フィルタ・ライフサイクル管理が異なる(platform.claude.com/docs)。
  • 推論前フィルタ(inference hooks)は「届く前に遮断する」予防的統制、Compliance API は「起きたことを後から取り出す」事後検出——2 つは独立した制御層として相補的に機能する(platform.claude.com/docs)。
  • セッションデータはデフォルト 6 年保持。HIPAA 対応組織ではローカルセッションはキャプチャされない(platform.claude.com/docs)。

「起きたことを後から確認できる」が要る理由

(B)AIエージェントはチャットとは仕事の性格が違います。ファイルを読み、APIを呼び出し、コードを実行して——複数のステップにわたって操作を積み重ねます。こうした操作の記録を組織が後から追えることは、コンプライアンス・eDiscovery・インシデント対応の基盤になります。

(B)セキュリティの制御には大きく「予防的統制(事前に止める)」「実行制御(操作範囲を限定する)」「事後検出(起きたことを後から確認する)」の 3 層があります。AIエージェントの統制設計でも、この 3 層を組み合わせて使うのが定石です。

(B)Anthropic の Compliance API(Claude Enterprise beta)は、この 3 層目——事後検出の設計を提供する API です。エージェントが何を言い、何をしたかを、法務・コンプライアンスチームが後から取り出せるようにします。Claude Cowork と Claude Code のセッションをカバーし、チャット・Cowork・Claude Code の全サーフェスを単一の API でカバーできる設計です(platform.claude.com/docs)。

予防・実行制御・事後検出が相補的に機能する

① 推論前フィルタ(inference hooks)プロンプトがモデルに届く前に allow / deny を判定して遮断予防的統制② 実行制御(サンドボックス・RBAC・監査ログ)操作範囲を最小権限で限定し、逸脱を構造で抑える実行制御③ Compliance API(セッション転写)起きたことを後から取り出す → eDiscovery / DLP 施行 / SIEM事後検出←─── 独立した 3 層が相補的に機能する ───→
3 層の制御は独立して機能し、相補的に組み合わせる。①推論前フィルタが不審なプロンプトを遮断し、②実行制御がエージェントの操作範囲を限定し、③Compliance API がセッション全体を後から記録として提供する。

セッション転写とは何か

(B)Compliance API のセッション転写は、Anthropic のサーバー側で Claude API への呼び出しをキャプチャして再構成したものです。クライアントのデバイスに何かをインストールする必要はなく、クライアントがすでに Claude API へ送っているリクエストをサーバー側で記録します(platform.claude.com/docs)。

(B)転写に含まれるのは、ユーザー入力のテキスト・AI の応答テキスト・ツール呼び出し(tool_use)・ツール結果(tool_result)のテキスト部分です。含まれないのは、Thinking ブロック・システムプロンプト(マーカーテキストで代替)・ツール定義・MCP サーバー設定・画像や PDF などのバイナリです(platform.claude.com/docs)。

(B)システムプロンプトが返されない設計は意図的です。システムプロンプトには組織固有の指示や機密情報が含まれることがあり、コンプライアンス審査のためにプロンプトを全部公開するより、審査に必要な「会話内容」だけを返す境界が引かれています。

2 系統のエンドポイントが動作環境で分かれる

ローカルセッション(ユーザー端末で動く)Cowork in Claude DesktopClaude Code(CLI / Desktop / IDE)/v1/compliance/apps/sessions/localID 接頭辞clls_保持期間6 年(org 設定で変更可)フィルタcreated_at 範囲のみリモートセッション(クラウドで動く)Cowork(Web / Mobile)/v1/compliance/apps/sessions/remoteID 接頭辞cse_保持期間6 年フィルタorg / user / created_at両系統とも同じ Compliance Access Key(read:compliance_user_data スコープ)で利用可(Anthropic platform.claude.com/docs、2026-08-11 拡張)
ローカルセッション(ユーザー端末で動く Cowork・Claude Code)とリモートセッション(クラウドで動く Cowork Web/Mobile)は別エンドポイントで、ID 接頭辞・フィルタ・ライフサイクルが異なる。両系統とも同一の Compliance Access Key で利用できる。

(B)Thinking ブロックが転写に含まれない設計思想

AI の「内部推論(Thinking)」はユーザーが入力した内容でも実際の出力でもなく、モデルが答えを導くための中間プロセスです。コンプライアンス目的の転写から Thinking を除外することで、審査者が「何を頼んで、何が返ってきたか」という事実関係に集中できます。また Thinking の内容はモデルの内部状態であり、会話の外部効果(ユーザーへの返答・ツール操作の結果)とは性格が異なります(platform.claude.com/docs)。

eDiscovery・DLP 施行・SIEM との統合

(B)Compliance API の主な用途は 3 つです。① eDiscovery(法的開示):セッション転写を 6 年間(デフォルト)保持し、訴訟や規制対応の際に会話ログを取り出せる。② DLP 施行:推論前フィルタ(inference hooks)でブロックしつつ、Compliance API で記録を後から検証し、ポリシー改善に使う。③ SIEM 統合:セッションメタデータと転写を SIEM に投入し、異常なユーザー行動を検出する(platform.claude.com/docs)。

(B)Compliance API と比較されやすい隣接機能に OpenTelemetry ログがあります。Cowork の OpenTelemetry と Claude Code モニタリングはアクティビティが起きた瞬間にテレメトリをストリーミングします。一方の Compliance API は保持済みのセッション転写を「後から引き出す」設計です。リアルタイムな可視化には OpenTelemetry、法的証拠能力を要する保全・eDiscovery には Compliance API、というように目的で使い分けます(platform.claude.com/docs)。

(B)推論前フィルタ(inference hooks)との分業についても整理しておきます。Anthropic のドキュメントはこの 2 つを「インライン(推論前)」と「事後(Compliance API)」として明確に対置しています——inference hooks はプロンプトが届く前にリアルタイムで allow/deny を返す予防的統制で、Compliance API はリクエストが処理された後に記録を返す事後検出です(platform.claude.com/docs)。

🛡 (A)agens の実行層統制と Compliance API の関係

(A)agens はタスクごとのサンドボックス隔離・RBAC・監査ログ・操作の巻き戻しを実行層で提供します。これらは「エージェントが何をしたか」を実行の瞬間に制御・記録する仕組みです。(B)Compliance API のようなセッション転写の長期保持・eDiscovery 対応は実行層とは独立した「事後検出」の別層であり、組み合わせることで実行時の統制と事後の証拠保全の両方をカバーできます。

よくある質問

Compliance API のセッション転写には何が含まれますか?
ユーザー入力のテキスト・AI の応答テキスト・ツール呼び出し(tool_use)・ツール結果(tool_result)のテキスト部分が含まれます。Thinking ブロック・システムプロンプト・ツール定義・バイナリファイルは含まれません(platform.claude.com/docs)。
ローカルセッションとリモートセッションの違いは何ですか?
ローカルセッションはユーザー端末上で動く Cowork(Desktop)と Claude Code(CLI・Desktop・IDE)で、エンドポイントは /v1/compliance/apps/sessions/local、ID 接頭辞は clls_ です。リモートセッションはクラウドで動く Cowork(Web/Mobile)で、エンドポイントは /v1/compliance/apps/sessions/remote、ID 接頭辞は cse_ です。リモートは組織・ユーザーでフィルタでき、status フィールドも持ちます(platform.claude.com/docs)。
推論前フィルタ(inference hooks)と Compliance API をどう使い分けますか?
inference hooks はプロンプトがモデルに届く前に allow/deny でリアルタイム遮断する予防的統制、Compliance API はセッション全体を後から取り出す事後検出です。2 つは独立して機能し、DLP ポリシーの事前執行と事後検証・eDiscovery に使い分けます(platform.claude.com/docs)。
セッションデータはどれくらい保持されますか?
ローカルセッションはデフォルト 6 年保持です。組織がカスタムの保持期間を設定している場合はその期間が代わりに適用されます(6 年より長くても短くても)。複数のカスタム期間が設定されている場合は最短が適用されます。HIPAA 対応組織ではローカルセッションはキャプチャされません(platform.claude.com/docs)。

最終更新: 2026-08